鍋島焼を支えてきた”仲立ち紙”

鍋島焼技術の保持、継続、成長にかかせなかった、仲立ち紙。

江戸時代、諸大名から徳川家へ月次献上が行われておりました。鍋島藩は11月に鍋島焼を献上しており、さまざまな鍋島焼の品物が贈られておりました。

その中でも組食器として大皿20枚、中皿20枚など、さまざまな品物にそれぞれ同じ文様が施されていたものが多くございます。
将軍家以外にも鍋島藩と縁のある諸役人、親戚等へも贈られていましたので同文様の作品は数多く作られていたと思います。

このように同じ文様を繰り返し描く為に使用されているのが『仲立ち紙』という、下図用の型紙です。
ちなみにこの仲立ち紙を使用する製作方法は今も当時と変わらないやり方で作っております。

当時(江戸時代)から鍋島焼の格式を維持、継続、成長させていく為に、相当な技術力とその技術を各職人達に鍋島焼の世界観を統一(今でいうブランドの世界観の統一)させていく事の難しさもあったかと思われます。
その為にも仲立ちという鍋島焼の決まった絵付けの型がある事により職人が変わっても、ある一定の格式が保てる絵付けができたのだと推測します。このような技術がある事により鍋島焼の組織としてクオリティの高い品物を長年に渡り献上できたのだと思います。

『仲立ち紙』の使用方法とは。

仲立ち紙の使用方法を説明させて頂きます。
あくまでも20年弱鍋島焼を学び製作してきた中での私の個人的な考えですので人によっては素材や工程が違う場合もございますのでご理解下さい。

基本的に仲立ち紙とは和紙に桐墨で描きたい絵柄を裏打ちして素焼生地に椿の葉などで和紙が破れない程度にこすっていくと薄らと絵柄が素焼にうつります。

このような工程を行う事で、ある一定の絵付け技術さえあれば同じデザインで同じクオリティの商品をたくさん作る事が可能となります。
私は紙質が粗めで厚めの和紙を使用する事が多いです。人によって和紙の材質は全く異なるとは思いますので自分が使いやすい素材を使う事をオススメします。
桐墨については現代では桐の箱などを燃やして墨にしたものを水で1時間ほど擦り起こして使用します。
あと仲立ち紙を素地にうつす際には椿の葉を使用します。

椿の葉を使う理由は、椿の葉っぱには油分が含まれており仲立ち紙を使用していく事により和紙の強度が増していきます。
仲立ち紙を素地にうつす際に焼き物の素地は平面ではない物が多い為、自由がきく椿の葉が適しているです。

ちなみに椿の葉と山茶花の葉はすごく似ておりますが椿の葉を使用する理由がいくつかございます。

① 山茶花の葉は椿の葉に比べて小さいので使用しにくい。
② 山茶花の葉の付け根部分に細かい毛が生えているので使いにくいので葉の表面がツルっとしている椿の葉が適していると言われております。
③ 山茶花の葉の多くが平開して開くのに対し椿の葉はカップ状に開くので使いやすい。

このように椿の葉を使う理由がちゃんとあるのです!
改めて昔の人の知恵は凄いなと感じる部分でもありますね。
現代では透明で滑りがよいビニールのような素材を使用する方も多くいらっしゃいます。

仲立ち紙を使う懸念点

ここまで仲立ち紙の必要性をお話ししてきましたが、仲立ち紙を使用する事で弊害もでてきます。
例えば、絵付け実演をする際に仲立ち紙を使用すると、

『あー、型紙があるから描けるんだ!』

と思われる人も多くありません。もちろん型紙がなくとも作れる人も数多くいるし型紙がないと作れない人もいると思います。
これは、どのような環境でものづくりをしてきたのか?という事だと私は思います。

例えば窯元の従業員として絵付けを学んだ人は窯元の世界観を崩してしまうといけないので独自性をださないように型紙にそって描くように指導される事が多いです。
逆に作家活動をやっている職人さんは独自性をだして他社との差別化を図らないといけませんので型紙があると描きにくいという方もいらっしゃるかと思います。
どちらが良い悪いはないと思いますが僕、個人的には商品(作品)や環境によって適材適所で使いわけられるような技術力を身につける努力をしていくべきだと考えます。

(というか僕は、これまでそのような指導をして頂きましたので、ものづくりをしてきた環境にも大きく左右されると思います。)

仲立ち紙の必要性

・ブランドの世界観の統一性
・手描きでの同一柄の製造
・商品の安定供給

仲立ち紙の必要性はこの3つが挙げられると思います。
仲立ち紙とは同じものを描く為だけに作られたと思われますが『仲立ち』という製法があった事により江戸時代という長い歴史の中で長期的な鍋島焼の献上ができていたのだと思います。
現代では新しい技術やテクノロジーなどが誕生しておりますが、ちゃんと歴史を学びヒントにし適正な技術、技法、素材などの使用をしていく事が重要だと思います。

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